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そしてFig-3には、各々の閉鎖性海域を瀬戸内海と同じ水平縮尺で比較したものである。また、瀬戸内海を基準に各海域のスケールを図中表に示す。

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Fig-3. Scale of Major Enclosed Sea in the World
そこで、世界の代表的な閉鎖性海域を取上げ、これまでの開発行為により生じた環境問題、生態系に対する影響の実態、環境修復や環境管理に対する法制度化、そして環境改善のための市民活動について実態調査を行なった。以下にその結果について示す。
(1)地中海の環境状況
地中海は地球上で最大の閉鎖性海域であり、人類が関与した歴史文化の深さでも最高である、この地中海は瀬戸内海の141倍の海域面積を持ち、最大水深が4,846mの巨大な海域である。これまで汚染された瀬戸内海にとって、地中海はあこがれの美しい景観を持つ海域であった。しかし、実態は地中海のリゾート地に集中する観光客や人口増加・生活レベル向上により海洋汚染が進行している。地中海の中に位置するエーゲ海やアドリア海では、瀬戸内海の何倍もの水質汚濁や赤潮が発生している。
Fig-4には地中海の汚染状況を示す。地中海の中で最も景観の素晴らしいイタリアからスペインに掛けての海岸では油汚染、産業廃棄物汚染、重金属汚染が進行している。更に、陸上から大量の農業廃水と生活廃水が流失し富栄養化と赤潮の発生が見られる。アドリア海では、広大な流域を持つポー川から産業廃水、化学物質および生活廃水が運ばれるため汚染が著しい。
一方、地中海を囲む沿岸諸国は21ヶ所国で、人口は1億2千万人であるが、年間訪れる観光客は1億人(1992年)にもなり、夏季の急激な人口増加による負荷は環境破壊の大きな要因となっている。
更に2025年には人口が2億人、観光客も2億5千万人に増加すると予想されており、そのため大量の負荷量が地中海に注ぐことになる。特に、現在は汚染されていない地中海南部のアフリカ沿岸地帯が今後、人口増加と近代化が進めば地中海への負荷量(排水)が極度に増加し、広域な地中海全体が汚染される危険が生じる。狭いジブラルタル海峡一つしか入口がない地中海では、一旦汚染されればその回復は期待出来ない。多くの生物種が死滅し二度と回復しない。現状でも「海がめ」、「イルカ」等が減少している。陸上でも森林の減少が進み、過去の森林最大面積の5%しか残っていない。このように陸上の生態環境が変化すれば海域の生態系にも大きな影響を与えることになる。
(2)バルト海の環境状況と環境改善
Fig-5にはバルト海の汚染状況の一例を示す。世界最大の汽水海域(Estuary)である北欧のバルト海でも海洋汚染が著しい。
バルト海は瀬戸内海の20倍の面積を持つ海域であるが、瀬戸内海と特性が類似している。平均水深は55mで流入河川は250本と多く、海域環境にとって河川からの負荷影響度が大きい。しかし、バルト海の出入口は水深18mの狭いカテガット海峡で北海と結ばれているだけで海水交換が悪く、90%交換に25年を要するとされている。また、バルト海内は異質な水塊で構成されている。
沿岸周辺の7ケ国の人口は約2千万人で、河川流域国を含めると8千万人となる。この閉鎖的な海域には、Fig-5に示すように、周辺森林に無数のパルプや金属の工業が存在し、大量の重金属や汚染廃水と、8千万人分の生活廃水とが流入している。更に、農業廃水の流入も加わって1970年には最悪の汚染海域となっ

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Fig-4. Pollution Status of the Mediterranean Sea

 

 

 

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